2018年4月16日

粘性とせん断応力

1.3 流体の基本的性質

1.3.3 粘性とせん断応力
    図1.3.3.1のような管内の流れを考えてみる。流体の流れを分子レベルで見たときに、分子は壁に衝突したり、その分子が他の分子と衝突したりして運動量が減少する。[3]

図1.3.3.1: 管内の分子同士衝突

   このように分子の運動量の減少により、流体が流動しにくくなる作用を粘性という。[3]

   流動のしにくさは流体の粘り強さと言い換えることもできるだろう。この流体の粘り強さを数値化したのを粘性係数(粘度)という。粘性係数の単位は[$\mathrm{Pa\cdot s}$]である。[1]

   粘性係数に速度勾配の積が粘性力である。粘性力は空間的に一様な運動にする方向に働くため、せん断応力ともいう。[1]

   1枚の平板を過ぎる流れを見てみる。この場合には平板上で流速が$0$、ごく薄い層の外側での流速は$U$である。このような薄い層を境界層と呼ぶ。[1]

図1.3.3.2: 断面$\mathrm{x_1}$における境界層内の速度勾配の様子

   図1.3.3.2である$\mathrm{x=x_1}$での断面を考える。すると速度$\mathrm{u(x_1,y)}$$\mathrm{x_1}$を固定しているため、速度勾配は$\mathrm{y}$方向のみとなり、$\mathrm{u(y)}$と表せる。この時、平板に働くせん断応力$\boldsymbol\tau$は速度勾配$\dfrac{du}{dy}$に比例して

$\tau=\mu\dfrac{du}{dy}$

    となる。[1]

    ただ、今後流体の運動を調べるときには粘性係数よりも動粘性係数の方が重要になる。動粘性係数$\nu$は粘性係数$\mu$と密度$\rho$の比で表され、

$\nu=\dfrac{\mu}{\rho}$

となる。動粘性係数$\nu$の単位は[$\mathrm{m^{2}/s}$]である。 [4]

    静止した水の中で棒をかきまわす場合考える。静止した水に力を加えるとまずかきまぜた箇所の水が動き出す。動き出した水と周囲の静止した水の間に働く粘性力により、周囲の水も動き出す。つまり、かきまぜることにより流体に与えた力が粘性力によってある速度で周囲へと伝わることを意味する。この周囲への“速度の伝わりやすさ”を示したものが動粘性係数である。[4]

    次に、水とペンキを比較してみる。棒でかき回したときに水はかき混ぜやすく、ペンキはかき混ぜにくい。これは動粘性係数が異なるためである。

    温度と粘性係数の関係を見ると、空気の粘性係数は温度が高くなると大きくなる。一方で水の場合は温度の上昇とともに小さくなる。理由としては空気の場合は分子が自由に運動しており分子間の相互作用が無視できるため、せん断応力は分子の移動に伴う運動量の交換に起因して現れる。つまり温度が上昇すれば運動量の交換がより行われるようになり粘性が上昇する。一方で液体の場合は、分子が引き合う力を常に及ぼしあっており、温度が上昇すると引き合う力が弱くなり粘性が小さくなる。[1][3]

図1.3.3.3: 温度上昇による空気と液体の分子運動のイメージ図


参考文献
[1]: 同志社大学工学部 水島二郎, 流れ学
[3]:  久保田浪之介 他, 今日からモノ知りシリーズ トコトンやさしい流体力学の本
[4]:  http://camellia.thyme.jp/files/pdf/Viscosity20151120.pdf: 粘性係数と動粘性係数の違い